1 研究概要(Abstract)
古代文明では都市の建築やインフラは社会の安全を左右する重要な技術であった。
ハンムラビ法典には、建築者などの技術職に対して非常に厳しい成果責任が規定されている。
例えば、建築した家が崩壊して施主が死亡した場合、建築者は死刑とされるなど、
現代の感覚から見ても極めて厳しい責任制度である。
本研究では三層構造解析(TLA)を用いて、
技術職に対する成果責任制度が社会的に妥当であったのか
を制度構造から分析する。
2 研究方法
本研究では 三層構造解析(TLA:Triple Layer Analysis) を用いる。
分析は次の三層で行う。
Layer1:Fact(事実)
ハンムラビ法典の条文から制度の客観的事実を抽出する。
Layer2:Order(構造)
制度構造を以下の観点から整理する。
- Role(役割)
- Logic(制度論理)
- Interface(制度接続)
- Risk(制度破綻)
Layer3:Insight(洞察)
制度構造から技術責任制度の妥当性を分析する。
3 Layer1:Fact(事実)
3.1 建築責任制度
ハンムラビ法典では、建築者の責任が明確に規定されている。
根拠条項
第229条
建築者が建てた家が崩壊し、家主が死亡した場合、建築者は死刑となる。
第232条
建築した家が壊れた場合、建築者が修理費を負担する。
これらは技術職に対する成果責任制度である。
3.2 家族責任制度
根拠条項
第230条
家主の子が死亡した場合、建築者の子を処刑する。
この制度は責任が家族へ拡張される例である。
3.3 損害補償制度
根拠条項
第231条
奴隷が死亡した場合、建築者は奴隷を補償する。
これは損害補償制度の一種である。
4 Layer2:Order(構造)
Layer1のFactから制度構造を整理する。
4.1 成果責任構造
技術責任は
施工
↓
結果
↓
責任
という構造である。
これは 結果責任制度 である。
4.2 公共安全優先構造
社会の価値観は
公共安全
>
技術者保護
である。
つまり社会安全を最優先にした制度である。
4.3 家族責任構造
責任は
個人
↓
家族
へ拡張される。
これは古代社会に特徴的な制度である。
4.4 技術統制構造
厳しい責任制度により
技術者
↓
品質重視
が促進される。
5 Layer3:Insight(洞察)
制度構造から成果責任制度の妥当性を分析する。
5.1 社会安全確保制度
建築崩壊は都市社会に重大な被害を与える。
そのため
建築
↓
事故
↓
厳罰
という制度は
公共安全確保
の観点では合理性を持つ。
5.2 技術品質向上効果
厳しい責任制度は
責任
↓
品質管理
を促進する。
その結果
建築品質
の向上が期待できる。
5.3 技術革新抑制の可能性
しかし死刑などの厳罰は
失敗
↓
極端なリスク
を意味する。
その結果
技術挑戦
↓
減少
という可能性もある。
5.4 責任の過剰連鎖
家族責任制度では
事故
↓
技術者
↓
技術者家族
という責任拡張が発生する。
これは現代の法制度とは大きく異なる。
5.5 技術評価制度の未成熟
古代社会では
- 設計ミス
- 材料問題
- 自然災害
などの原因を正確に区別することが難しい。
しかし制度では
結果
↓
責任
とされている。
つまり
過失責任ではなく結果責任
である。
5.6 技術職の社会的重要性
厳しい責任制度は、技術職が社会にとって重要であることを示している。
建築は
- 都市安全
- 社会基盤
- 経済活動
に直結する。
そのため技術者は重要な社会的役割を担っていた。
6 総括
TLA分析から導かれる結論は次の通りである。
ハンムラビ法典の技術責任制度は
- 公共安全の確保
- 建築品質の向上
という点では合理性を持つ。
しかし
- 過剰刑罰
- 家族責任
- 技術革新抑制
という問題も存在する。
つまりこの制度は
安全優先型の成果責任制度
であり、
現代の過失責任制度とは大きく異なる。
7 Kosmon-Lab研究の意義
ハンムラビ法典の技術責任制度は、
世界最古の職業責任制度の一つ
と考えられる。
この制度を分析することで
- 職業倫理
- 社会安全
- 技術責任
の関係を理解することができる。
Kosmon-Labでは今後も
- 古代文明
- 日本史
- 組織構造
を対象に
三層構造解析(TLA)による文明OS研究
を進めていく。