構造転換点という概念について
鈴木商店の構造分析を進める中で、著者は「構造転換点」と呼ぶべき重要な概念に行き当たった。
明治から昭和初期にかけて日本経済を席巻した巨大商社――鈴木商店は、当初は典型的な商社モデルによって成長していた。
商社モデル
↓
回転型ビジネス
↓
キャッシュ創出
すなわち、高い資金回転によって利益を生み出す キャッシュ創出型組織 である。
しかしある時点で、この構造に大きな変化が生じる。
それが 神戸製鋼所(造船事業)への参入 であった。
この事業は次のような構造を持つ。
重工業
↓
巨額投資
↓
長期回収
つまり 資本拘束型ビジネス である。
ここで鈴木商店の組織内部には
回転型ビジネス
+
資本拘束型ビジネス
という、性質の異なる二つの構造が同時に存在することになった。
その結果、
商社利益
↓
重工業投資へ吸収
という資金構造が形成される。
この時点で鈴木商店の
- 利益構造
- 資金循環
- 経営判断
は根本的に変化していた。
著者は、このような変化を 単なる事業拡大ではなく、組織OSの変更 と捉えている。
構造転換点の定義
以上の観察から、著者は次のように考える。
構造転換点とは
組織の
・収益構造
・資本構造
・意思決定構造
を根本的に変化させる出来事
である。
重要なのは、この転換が 直ちに崩壊を引き起こすわけではない という点である。
むしろ多くの場合、
転換点
↓
構造歪み
↓
外部ショック
↓
崩壊
という過程を経て、問題が顕在化する。
鈴木商店の場合、その外部ショックが 昭和金融恐慌 であった。
しかし恐慌そのものが破綻の原因というより、
すでに形成されていた 構造歪みが露呈した契機 と見る方が合理的である。
帰納的発見としての構造転換点
この概念は、理論から導かれたものではなく、
具体的事例の分析から抽出された帰納的概念である。
事例分析
↓
構造パターン発見
↓
概念化
という研究プロセスによって得られたものである。
構造史という視点
この分析方法の特徴は、
事件
ではなく
構造
を中心に歴史を理解する点にある。
この視点は
- 経営史
- システム論
- 文明史
とも親和性が高い。
そしてこの「構造転換点」という概念は、
- 企業史
- 国家史
- 組織史
など、さまざまな領域に適用可能であると考えられる。
今後の研究への応用
鈴木商店の事例では、
神戸製鋼所への参入
が構造転換点として機能した可能性がある。
同様の視点は、戦国時代の構造改革者である 織田信長 の研究にも応用できる可能性がある。
すなわち、信長の台頭を
英雄の登場
ではなく
戦国構造の転換
として分析できるのではないかという仮説である。
本研究メモは、その可能性を検討するための備忘として記録したものである。
所感
組織が変質する要因の一つに、構造的な変化があると著者は考えている。
それまで健全に機能していた組織が、ある時点から噛み合わなくなることがある。そのような場合、原因は個々の人間の問題ではなく、組織内部に生じた「構造的な問題」にある可能性が高い。
その歪みは、当初はごく小さな構造上の不整合に過ぎないかもしれない。しかし、それが時間とともに蓄積することで、やがて組織全体の機能不全や崩壊を引き起こすこともある。
TLA(三層構造解析)は、このような構造上の歪みを分析し、組織や社会がどのような方向へ進もうとしているのかを読み解くための学問であり、同時にそのためのフレームワークである。