第3世代DXにおけるAIと人間の役割構造
生成AIの普及により、企業のDXは新しい段階へと進みつつある。
従来のDXが主にIT化やデータ活用を中心としていたのに対し、現在は
AIと人間の役割分担
という新しいテーマが浮上している。
本稿では、この構造を整理するために、AI社会における新しい職業構造について考察する。
結論から言えば、本稿で整理する概念と近い方向性の研究は、すでに世界中で行われている。
ただし、それらは必ずしも同じ言葉や職種として整理されているわけではない。
つまり、
- 概念そのものは既に研究されている
- しかし、構造として整理された例は少ない
という状況である。
以下では、AI社会における三つの役割構造について整理する。
1 ナレッジ・マイニングの「生体センサー」
AI社会では、現場の情報を収集する役割が重要になる。
本研究では、この役割を
生体センサー(Human Sensor)
と呼ぶ。
構造としては次のようになる。
現場の人間
↓
AIの感覚器官
↓
現場データの収集
つまり、人間がAIの「感覚器官」として機能し、現場の情報を収集する役割である。
この概念に近い研究として、次の分野が存在する。
Human Sensing
人間をセンサーとして扱う研究分野である。
例
・スマートフォンによる交通情報収集
・災害情報のリアルタイム収集
・現場作業データの収集
この分野は
Human Sensor Networks
と呼ばれることもある。
Crowd Intelligence
人間による大量データ収集をAIが解析する仕組みである。
例
・Google Map の渋滞情報
・Amazon Mechanical Turk
・OpenStreetMap
Industrial Knowledge Capture
製造業では
暗黙知の収集
というテーマで研究が進められている。
例
・Toyota Knowledge Capture
・Industrial Knowledge Graph
・Worker Knowledge Mining
このような研究を整理すると、
AI社会では
人間がAIのセンサーとして機能する
という構造が存在することが分かる。
2 Human-in-the-Loop
AI社会では、もう一つ重要な役割が存在する。
それが
Human-in-the-loop
である。
これは、AIが判断に迷う場合に、人間が最終判断を行う仕組みである。
典型的な構造は次のようになる。
AI判断
↓
例外ケース(0.1%)
↓
人間による確認
この仕組みはすでに多くの分野で利用されている。
例
・医療AI診断
・自動運転
・AI倫理監査
・軍事AIシステム
また、AI責任問題の観点からも
最終判断を人間が担う仕組み
は重要視されている。
この分野は
AI Governance
とも関連している。
3 AIチューナー
AI社会では、AIを導入するだけでは十分ではない。
企業ごとにAIを調整する役割が必要になる。
本稿では、この役割を
AIチューナー
と呼ぶ。
構造としては次の通りである。
標準AI
↓
企業環境への調整
↓
実運用
この概念に近い職種として、次のようなものがある。
・AI Integrator
・Prompt Engineer
・AI Solution Architect
・AIOps
つまり、
AIを現場に適応させる調整役
である。
4 第3世代DXとの関係
DXの進化は大きく三段階で整理できる。
第1世代DX
IT化
第2世代DX
データ活用
第3世代DX
AIによる意思決定支援
この段階では
AI
+
Human
という協働構造が重要になる。
5 AI社会の役割構造
以上を整理すると、AI社会では次のような役割構造が形成される可能性がある。
AI
↓
生体センサー(データ収集)
↓
Human-in-the-loop(例外判断)
↓
AIチューナー(調整)
つまり、
AIの周囲に人間の役割が配置される構造
である。
6 本整理の特徴
世界の研究は主に
個別テーマ
として進められている。
例
・Human sensing
・Human-in-the-loop
・AI governance
一方、本稿の整理は
社会構造として整理している
点に特徴がある。
まとめ
本稿で整理した内容は、世界の研究と方向性としては一致している。
| 概念 | 世界の研究 |
|---|---|
| 人間センサー | Human sensing |
| 人間例外判断 | Human-in-the-loop |
| AI調整役 | AI integrator |
つまり、
概念は既に研究されている。
しかし、
AI社会の役割構造として整理した例はまだ少ない。
AI社会はまだ発展途上であり、
研究も断片的に行われている段階である。
その意味で、このような構造整理は
AI社会を理解するための一つの視点
になる可能性がある。
所感
なぜ本メモを残そうと考えたのかといえば、
生成AIの普及により、今後は雇用構造が大きく変化していく可能性があると感じたためである。
AIが多くの業務を処理できるようになれば、従来型の定型業務の一部はAIによって代替される可能性がある。
その結果、人間が担う役割も再定義されていくことになるだろう。
そのとき重要になるのは、
AIが苦手とする領域
である。
例えば、
・現場での目視確認
・実際の状況を言語化する作業
・例外ケースに対する最終判断
といった業務である。
本稿で整理した
- 生体センサー
- Human-in-the-loop
- AIチューナー
といった役割は、まさにこうした領域に対応するものである。
第3世代DXの時代においては、
AIの導入だけでなく、こうした人間側の役割設計についても、先行して検討しておく必要があるのではないかと考えている。
AI社会の設計とは、単にAIを導入することではなく、
AIと人間の役割構造を設計することである。